不断様/藍空れぃん。様
第8話 流れ三味線、はぐれ弾き
- フェア
- 「びっくりしちゃった まさか、あなたがあんなに強いなんて」
- シンゲン
- 「いやはや、そんなに感心するようなことじゃございませんよ
隠し芸ともいえないくだらぬものでして」 - フェア
- 「でも、そのおかげでポムニットさんは無事だったんだもの
ありがとう、シンゲン」 - シンゲン
- 「お役に立ったのならば 恐悦至極でございます」
- フェア
- 「お礼をしたいんだけどやっぱ 路銀とかのほうがいいよね?
あんまり、大きな額は渡せないけど・・・」 - シンゲン
- 「結構でござんすよ」
- フェア
- 「でも、それじゃ わたしの気持ちが」
- シンゲン
- 「ちゃんばらの芸で金を稼ぐことには、もうあきあきでしてね」
- フェア
- 「それって、さっきの居合いとか、剣術のことだよね?」
- シンゲン
- 「ええ、左様で
この世界に喚ばれた時から、ずっとそうしてきたもんですから」 - フェア
- 「(ああ・・・ そうだった・・・
この人も、召喚獣として、喚ばれてきた存在なんだ・・・)」 - シンゲン
- 「さっきのあれはおいしいゴハンへの心ばかりのお礼
そういうことにしておきましょう、ね?」 - フェア
- 「うん・・・ そういうことなら
明日の朝ゴハンはさらに腕によりをかけなくちゃね?」 - シンゲン
- 「え・・・ ということは、また白いゴハンを・・・」
- フェア
- 「当然でしょ?」
- シンゲン
- 「ひゃっほーっ♪ ありがたいことこのうえなしです!」
- なんていうか・・・ すごい人だよね いろいろと・・・
第10話 想い、途切れることはなく
- シンゲン
- 「親の因果が子に報い・・・か
むごいことですね」 - フェア
- 「・・・・・・」
- シンゲン
- 「ですが、彼女のあの必死な姿に、自分は感服しましたよ
悪魔の力がすごいとかそういうことじゃあございません
あれだけの業を背負い それでもなお、明るさを忘れずにい続けた
彼女の心根の強さにですよ」 - フェア
- 「!」
- シンゲン
- 「人は、自身とは異なるものを、恐れから排斥したがるものです
異邦人である自分も大なり小なり、身につまされてますしね」 - フェア
- 「あ・・・」
- シンゲン
- 「半魔の血のせいでつらい目にあうこともあったでしょう
隠しとおせるのならずっと、隠したままでいたかったでしょう
それをあきらめてまで彼女は、大切な存在を守ろうとした
相当の覚悟がなければできやしませんよ」 - フェア
- 「そうだよね・・・」
- シンゲン
- 「そうまでして守ろうとしたものこそが・・・
彼女のあの明るさと強い心根を支えているものなんでしょうね
それをけっして忘れちゃいけませんよ でなければ・・・
彼女は支えを失って今のままではいられなくなってしまう」 - フェア
- 「!?」
- シンゲン
- 「支えておやりなさい
つきあいの長い貴方たちにしかそれはできぬこと
そうでござんしょ?」 - フェア
- 「うん、そうだよね! 忠告ありがとうシンゲン・・・」
- お世話になったぶん 今こそ、力になってあげなくちゃ!!
第11話 うつろなるもの、来たりしもの
- シンゲン
- 「どこの世界でもやっぱり、人間は同じなんですねえ
恨みや、しがらみをひきずってしまう」 - フェア
- 「え?」
- シンゲン
- 「自分はね・・・大きな剣術の流派の跡取りだったんですよ
幼い頃から仕込まれて それにふさわしい腕前になったんです」 - フェア
- 「それってわたしと同じ?」
- シンゲン
- 「いやいや、違いますよ
御主人はそれでも父上の教えをちゃんと血肉にしておられる
自分は・・・ははっ 恨むことしかできませんでしたから」 - フェア
- 「・・・・・・」
- シンゲン
- 「ちゃんばら芸よりもこっちのほうが好きでしたしね
稽古をさぼっては習いに通ってましたよ
じつに、青くさい反発だったと思いますよ 今となってはね」 - フェア
- 「・・・・・・」
- シンゲン
- 「姉が・・・おりましてね
この姉の想い人が道場の師範代でして 流派のことも
姉のことも、真剣に愛してくれている立派な御方でして
ただ、自分がいては道場を継ぐことだけは不可能だったわけで」 - フェア
- 「じゃあ、シンゲンがこっちの世界に残った理由って!?」
- シンゲン
- 「ま、そういうことです
召喚された偶然を利用させてもらったワケですな」 - フェア
- 「だからって・・・」
- シンゲン
- 「悔いちゃいませんよ
姉夫婦のためにも自分自身のためにもこれが一番でしたし
こうして、好きな芸で暮らしていられるわけでござんすから♪」 - フェア
- 「そのわりに、戦わせてばっかりでゴメンね?」
- シンゲン
- 「ああ、イヤミのつもりじゃございませんよ?
御主人たちのために剣を振るうことは苦ではありません
争いが生む、恨みやしがらみの重さをご存じですからね
だから、安心してお役に立てるんです」 - フェア
- 「シンゲン・・・」
- シンゲン
- 「それを忘れた結果があの先生のような犠牲者を生むんです
力や勝利ばかりを求めて、人の道まで踏み外してしまう」 - フェア
- 「イヤだよね・・・ そういうのは・・・」
- シンゲン
- 「ですね・・・」
- この人も、やっぱり色んなものを背負っているんだね・・・
第13話 思い願うこと、貫くこと
- シンゲン
- 「ねんねねんねと寝る子はかわいや
起きて泣く子はつら憎い・・・」 - フェア
- 「なんなの、その歌は?」
- シンゲン
- 「子守歌ですよ 鬼妖界のね
どうにも寝つけないので、一曲ぶってみようかと」 - フェア
- 「寝ようとしてる本人が歌っても意味ないんじゃ?」
- シンゲン
- 「いやまあ、そうですがね」
- フェア
- 「まったく・・・」
- シンゲン
- 「死んで花実が咲くものか、花実が咲くというならば
あの子の笑顔はなぜ、咲かぬ」 - フェア
- 「この歌って・・・」
- シンゲン
- 「ええ、そうです 子守歌ということになっていますけど
本当のところは、憂き世の無常を唄ったものなんですよね
死に行く者への哀惜と残された物たちの嘆き
そして、死に急ぐ者をいましめるためのね」 - フェア
- 「シンゲン・・・」
- シンゲン
- 「眠れない理由はね 腹が立って、仕方がないからなんですよ
どいつも、こいつも 得手勝手な理由へと酔いしれた挙句
ほいほい、命を捨てるようなことばかりしてやがる
バカバカしいったらありゃしませんよ」 - フェア
- 「だけど、鬼妖界のサムライって
たしか、そういう生き方をするものなんじゃないの?」 - シンゲン
- 「だから、自分はとんずらをきめてきたんですってば
自分の命は、自分のために使うもんです
見えない何かに捧げるもんじゃありませんよ」 - フェア
- 「なるほどね・・・」
- シンゲン
- 「しかし、それが当人にとって満足だってことでしたら
出しゃばって止めるほど、野暮天じゃありませんがね」 - フェア
- 「ははは・・・」
- シンゲン
- 「ま、なんだかんだ言って、自分は身勝手なんですよ
好きなように生きて 好きなように死ぬ
これだけできれば万々歳って思っているんですから」 - フェア
- 「でも、それって実際には難しいことなんだよね」
- シンゲン
- 「ええ、それがまさに憂き世のつらさというヤツでして・・・」
- 死んで花実が咲くものか、か・・・
第14話 来訪者たち、彼方より
- シンゲン
- 「おやおや、御主人 ずいぶんとご立腹のようですねえ」
- フェア
- 「あたりまえじゃない
ギアンったら味方をだましたりおどしたりして
あんな卑怯なことして恥ずかしくないの!?」 - シンゲン
- 「いいんじゃないですか それが、本人にとって必要なことだったら」
- フェア
- 「なによ、シンゲン! あなた、ギアンの味方するつもり!?」
- シンゲン
- 「まあまあ、落ち着いて そんなつもりなんか全然ないですってば
ただ、彼が必要もなくああいった真似をするような愚か者だとは
自分には、どうしても思えないんですよねえ」 - フェア
- 「まあ、たしかに・・・ そんな気はするけど」
- シンゲン
- 「あるいは、彼は卑怯と呼ばれる覚悟をしてるのかもしれませんね」
- フェア
- 「どういうこと?」
- シンゲン
- 「さっきも言ったとおり 必要に迫られてるからじゃないですかね?
そうまでして、彼にはやりたいことがあるのかもしれません」 - フェア
- 「・・・・・・」
- シンゲン
- 「それにまあ、自分も似たようなことをしてきましたからねえ」
- フェア
- 「似たようなこと???」
- シンゲン
- 「自分を召喚した相手をおどしちゃったことがあるんですよねえ
そっちの呪文とこちらの居合い
どちらが先に届くのか試しますか、ってね♪」 - フェア
- 「な!?」
- シンゲン
- 「その結果、平和的に自由の身になれたというわけでして」
- フェア
- 「あ、あははは・・・」
- シンゲン
- 「追いつめられたら 誰だって、必死になるもんですよ
見栄や体裁なんかクソの役にも立ちはしないですからね」 - フェア
- 「シンゲン・・・」
- シンゲン
- 「まあ、そうやって割り切ってしまうのも逃げでしょうしねえ」
- (ベベンッ!)
- シンゲン
- 「考え方は人それぞれ だからこそ、厄介で面白いんですよ」
- そう言われたら、なんか怒ってたのが、バカバカしくなってきたよ・・・
第16話 相談イベント
第18話 はばたき、空へと突き抜けて
- -三味線の音-
- シンゲン
- 「……」
- フェア
- 「…よっ、と!」
- シンゲン
- 「おや、こんな夜中にこんな所まで、どうもご苦労さまですな」
- フェア
- 「それは、こっちのセリフだよ
眠らなくていいの シンゲン?」 - シンゲン
- 「わかっちゃいるけど眠れない…
だから、貴方もここにいるんでしょう?」 - フェア
- 「まあ、ね 三味線の音色も聞こえてきたし」
- シンゲン
- 「やかましいですかね?」
- フェア
- 「いや、なんていうの そういう弾き方ならいいんじゃない?
月夜には、なんだか似合ってる気がするし」 - シンゲン
- 「おお、うれしいこと言ってくれますねえ
では、もうしばらく弾かせてもらいますか」 - フェア
- 「うん、お願い」
- -三味線の音-
- フェア
- 「思えば、わたしたちが知り合ったきっかけもこれだったんだよね
大通りで、あなたが三味線の弾き語りをしていてさ…」 - シンゲン
- 「ええ、そうでした
路銀を稼ぐため、一曲ぶたせてもらってたんでしたねえ…」 - フェア
- 「歌い出した途端、客が逃げたのよね」
- シンゲン
- 「イヤなこと、しっかりおぼえてますねえ」
- フェア
- 「でも、演奏のほうはホントにすごかったよ 聞き惚れちゃったし
ミルリーフなんかすごく気に入ってたみたいだし」 - シンゲン
- 「ええ、おかげさまでひさびさの白いゴハンにありつけました」
- フェア
- 「だけど、そのせいでわたしたちの面倒にまきこんじゃった」
- シンゲン
- 「あれは、自分が勝手に首をつっこんだだけのことですって」
- フェア
- 「でも、剣で戦うのはやっぱ、不本意ではあったんでしょ?」
- シンゲン
- 「それは…」
- フェア
- 「ずっと近くで見てればそれぐらいのことはちゃんとわかるって
あなたは、剣の腕を一度も自慢してない ううん、むしろ
くだらないものだってバカにしてるもん」 - シンゲン
- 「まあ、実際くだらないものですからねえ
流派だ、極意だ作法だとかいっても とどのつまりは
人を殺める方法でしかないわけですし」 - -三味線の音-
- シンゲン
- 「人を楽しませる芸事のほうが、よほど役立つってもんですよ♪」
- フェア
- 「……」
- シンゲン
- 「でもまあ、これもまた縁だったんですかねえ」
- フェア
- 「えにし?」
- シンゲン
- 「巡りあわせですよ 不思議な、ね
もしも、あの時御主人たちと出会ってなかったとしたら
おそらく、自分はもっと不本意な形で
だいっきらいなちゃんばら芸の封印を解いていたはずです
生きる糧を得るために」 - フェア
- 「!」
- シンゲン
- 「ですが、御主人と出会えたおかげで無意味な殺人芸も
ちっとはマシな形で役に立ちましたよ
気の合う仲間たちを守ってあげられるんですからね?」 - フェア
- 「シンゲン…」
- シンゲン
- 「それに、白いゴハンも食べ放題ですし♪」
- フェア
- 「あ、あのねえ…っ」
- シンゲン
- 「でも、居候な身分も明日になれば、もうおしまいです
争う理由が消えればもう、用心棒も必要ないでしょう?」 - フェア
- 「そっか…そうだよね…
シンゲンの三味線を聞くことができるのも
今夜が、最後かもしれないんだね」 - シンゲン
- 「御主人…」
- フェア
- 「やっぱり、自治区に行っちゃうんだ?」
- シンゲン
- 「他にはあてもないですしねえ…
もっとも、路銀はすっからかんのままなもんですから
まだしばらくはこの町にとどまっているでしょうけど」 - フェア
- 「うん…だけど、なんだかちょっとさびしいな
もう、白いゴハンを毎日用意することもなくなるって思うと」 - シンゲン
- 「うーん…では、こんな妙案はいかがでしょうか?
夫婦になりましょう♪」 - フェア
- 「…は?」
- シンゲン
- 「結婚するんですよ」
- フェア
- 「誰と、誰が???」
- シンゲン
- 「もちろん、自分と御主人がですよ」
- フェア
- 「………
えええぇぇ~っ!?
ちょ、ちょっと!? 冗談にしては、それ笑えないよっ!?」 - シンゲン
- 「そりゃそうですよ だって、本気ですし」
- フェア
- 「ちょ、ちょちょ…ちょっと、待って!?
結婚なんて、そんないきなりすぎるよ
それに…わたし、まだ子供だし女としての魅力だって全然ダメだし…」 - シンゲン
- 「幼妻なんてのは鬼妖界じゃ、さほど珍しくないですよ
それに、御主人が自分自身を、どう思っていようとも
自分は、貴方のこと気に入っちゃっているんですし♪」 - フェア
- 「う、あ、う…っ」
- シンゲン
- 「覚えといてくださいよ フェア 自分はね…
好きなものに関してはとことん、のめりこむ性分なんですよ?
妥協なんて、一切してあげませんからね?」 - フェア
- 「…っ!?」
- シンゲン
- 「まあ、今夜のところは仁義をきっただけでもよしとしましょうか
あんまり、いじめたら明日の戦いに支障が出ちゃいますしね」 - フェア
- 「と、とっくに…っ 支障が出ちゃいそうになってるよぉっ!?」
- シンゲン
- 「じゃあ、そのぶんはしっかり責任とらせていただくとしますか」
- フェア
- 「え…」
- シンゲン
- 「守ってあげますよ たとえ、五界の全てを敵に回したとしても
フェア 貴方だけは、絶対にね」
エンディング
- ルシアン
- 「ありがとうございます また、お越しください」
- フェア
- 「ギネマ鳥のオムレツにソレルクの甘辛煮込みあがったよ!」
- リシェル
- 「はいはい、了解! お次は海賊風焼き飯ふたつ、よろしく!」
- フェア&リシェル
- 「つ・・・っ つかれたあぁ・・・っ」
- ルシアン
- 「二人とも、ほんとにおつかれさま」
- フェア
- 「うん、ルシアンもおつかれさま」
- リシェル
- 「にしても、最近のお昼時って、戦場そのものよねえ
ちょっと前まではお客が列を作るなんてありえなかったもん」 - ルシアン
- 「それはそうだよ! なんたって、今のフェアさんは
「ミュランスの星」が認めた、帝国最年少の有名料理人だもの
噂を聞いて、遠くから食べに来る人たちもいるくらいなんだよ」 - リシェル
- 「有名料理人ねぇ・・・」
- フェア
- 「そんなのは、他人が勝手に騒いでるだけよ
わたしはただ、ずっとこの町でおいしい料理を作り続けて
もっと、みんなに喜んでもらいたいだけ それだけでいいの
まあ、とにかく今はひと休みにしましょ
夜になったら、また大忙しなんだから」 - ルシアン&リシェル
- 「はーい・・・」
- シンゲン
- 「いやはや、繁盛しているようでなによりですね」
- フェア
- 「他人事だと思ってのんきよねえ
もーっ、どうせなら忙しい時にやって来て手伝ってほしいよ」 - シンゲン
- 「いやいや、これでも自分は吟遊詩人の端くれですから
身につけた芸のみで稼ぐのが、本道ってもんでしょう」 - フェア
- 「ふーん…
そういうからにはばっちり、稼いできたんだよねー?
たまってるツケを払えるくらいに♪」 - シンゲン
- 「いやー、それがなかなか世間の風は厳しくって…」
- -お腹の音-
- シンゲン
- 「あ…」
- フェア
- 「いいよ、いいよ 最初から過大な期待はしてないよ」
- シンゲン
- 「とほほほ…ひどい言われようだ」
- フェア
- 「ねえ、シンゲン 思うんだけどさ
歌で稼ぐんだったらこの町の盛り場よりも
タラントの劇場とかに出演したほうが早いんじゃないの?」 - シンゲン
- 「うーん…そうしたいのは山々なんですけどねえ
ほら、自分は鬼妖界の人間なもんですからね
身元が確かじゃなきゃ信用してもらえないと思うんですよ」 - フェア
- 「あ…」
- シンゲン
- 「すくなくとも、聖王都では門前払いでしたし」
- フェア
- 「なんか、いやだなあ そういうのって…」
- シンゲン
- 「仕方がありませんよ
雇う側からすれば得体の知れない相手は避けたいでしょうし」 - フェア
- 「そうかもしれないけどでも…」
- シンゲン
- 「ま、それに自分の芸は大舞台向きのもんじゃございませんし
じっくりと聞かせて心にしみわたらせるのが、流儀ですから」 - フェア
- 「うん、シンゲンのはそういう芸だよね
歌わなかったらの話だけど…」 - シンゲン
- 「ふはっ! こりゃまた、非常に手厳しいっ!!」
- シンゲン
- 「ふうっ、ごちそうさまでした…
やはり、御主人の作ってくださるご飯は最高ですな」 - フェア
- 「よく言うよねえ さんざん注文つけてくれたクセして
ミソを使ったスープやら、しょうゆ味の煮物や、和え物やら
おかげで鬼妖界の料理には、すっかり詳しくなっちゃった」 - シンゲン
- 「はははは…」
- フェア
- 「まあ、苦労したぶん新しいレシピとかもできたんだけどね」
- シンゲン
- 「ほう、たとえば?」
- フェア
- 「潰したウメボシとチーズを巻いた魚の揚げ物は
リシェルとかミントお姉ちゃんに好評だったな」 - シンゲン
- 「うまそうですな それは…」
- フェア
- 「はいはい…次に作った時には食べさせてあげるよ」
- シンゲン
- 「でもまあ、しかしなんですな…
いくら、おかずがうまかろうとも 自分としては
白いお米のゴハンがなにより肝心でして」 - フェア
- 「こだわってるよねえ」
- シンゲン
- 「その点、御主人の炊いてくださる白いゴハンは
初めて食べた時からじつにうまかった
簡単そうに見えて美味しく米を炊くのは難しいもんです
いったい、どこでコツを習ったんで?」 - フェア
- 「うーん…わたしは、なんとなく父さんのやり方を
覚えてる限りでマネしてるだけなんだけどなあ」 - シンゲン
- 「ケンタロウ…たしか、そういうお名前でしたっけ?」
- フェア
- 「名前からしてちょっと普通じゃないでしょ?」
- シンゲン
- 「いや、鬼妖界ならそれほど奇妙でもありませんがね」
- フェア
- 「ホントに!?
てことは、まさか父さんってシルターンの出身だとか…」 - シンゲン
- 「にしては、いささか腑に落ちない点があるんですよねえ
鬼妖界じゃ存在しないおかしな言葉なども使われるようですし」 - フェア
- 「ロレイラルの科学とかサプレスやメイトルパについての知識も
中途半端なクセしてそれなりにもってるみたいだからなあ」 - シンゲン
- 「得体の知れない御仁ですなあ…」
- テイラー
- 「おい、本当に最後まで顔も見せずに行くつもりなのか?」
- ケンタロウ
- 「ああ、親がなくとも子は育つ、ってな
アイツも、想像以上にいっちょまえに育ってやがったからなあ
オレ様がいなくたってなにも問題はねーさ」 - テイラー
- 「だが、いくらなんでも薄情すぎやしないか?
次はいつ、戻ってこられるかも知れんというのに・・・」 - ケンタロウ
- 「約束がよ、いまだに守れてねーんだよなあ
エリカの病気を治して 家族みんな、揃って一緒に暮らしていく
その方法を見つけるまでは、オレ様は帰れねえんだわ」 - テイラー
- 「だが・・・」
- ケンタロウ
- 「バカとかクソとかロクデナシってのは慣れちまったけどよ
ウソつき、って呼ばれるのだけはカンベンだからな」 - テイラー
- 「そうか・・・」
- ケンタロウ
- 「つーわけだからよ 悪いが、もうすこし世話を頼むわな」
- テイラー
- 「ふん、言われずともわかっておるわ
あの人の居場所は二度と、誰にも荒らさせはせんよ
だから、とっとと約束を果たして戻ってこい!!」 - ケンタロウ
- 「おうよッ!」
- フェア
- 「やめた…深く考えたってしょうがないもん
そもそも、父さんはずっと冒険者なんてやってんだから
旅先で、変な知識を仕入れてきてるだけかも知れないしね」 - シンゲン
- 「なるほど、たしかにそうかもしれませんな
いずれにせよ…
そのうち、正式に挨拶させてもらわなくてはなりませんね
娘さんをください、と」 - フェア
- 「ふぇ…っ!?」
- シンゲン
- 「いや、この場合は入り婿という形になりますから
お世話になります、が適切でしょうかねえ
どう思います?」 - フェア
- 「だ、だから…その話は、ちょっと待ってって…」
- シンゲン
- 「甲斐性なしの自分では、やはりダメですかね?」
- フェア
- 「ダメとか、そういうことじゃあ…」
- シンゲン
- 「では、求婚そのものは受け入れてくださると」
- フェア
- 「あ、う、あ…っ」
- シンゲン
- 「まあ、今さら形式にこだわる必要もないかもしれませんがね
ひとつ屋根の下で暮らしている事実もあるわけですし」 - フェア
- 「だからって、部屋は別々じゃないの!?」
- シンゲン
- 「遠慮してますからね
でも、あんまり思わせぶりな態度でじらされると…」 - フェア
- 「!?!?!?!?」
- シンゲン
- 「言ったでしょう 自分は、夢中になってしまったら
とことん、のめりこむ性分で、妥協は一切しないって…」 - フェア
- 「…っ、わたし! 買い出しに行くの忘れてたっ!?
留守番よろしくっ!」 - シンゲン
- 「くくく…っ 自分も、ツメの甘いことで…
でもまあ、漬け物もお酒も、長く寝かして置けばおくほどに
熟成されていくし楽しみも増すというもんですし…
まあ、気長に待つといたしましょうかね」 - フェア
- 「(あうあうっ、わたし
いったい、どうしたらいいのよぉ‥っ?)
シンゲンの…っ シンゲンのぉ…っ
ぶぁかあああああぁぁぁぁぁぁーっ!!」 - いつまでだって、待ち続けますよ。
自分にとって、それだけ価値のあることなんですから。
だから、約束しましょう。
どんな相手を敵に回すことになったとしても、必ず守ってみせますよ。
大切なあなたを、…ね…?
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